対話型アート鑑賞の威力

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2023年1月9日更新

アートマインド®︎コーチングのクラスをはじめたよ。

とインスタやFacebookでその内容についての記事をアップしたところ、

以前そのプログラムに関わったことがあるけど、何が面白いのかさっぱり分からなかった(意訳)

というメッセージを友人からもらいました。
(だけどなんとなく理解できたよ、という嬉しいメールでした)

アートマインド®︎コーチング」というのは、JEARA(一般社団法人日本アート教育振興会)という組織が、以下の二つをベースに、日本人の特性に合わせて生み出したものです。

■ MoMA(ニューヨーク近代美術館)で1980年に開発されたVTS(Visual thinking strategy)対話型アート鑑賞法

■ イェール大学医学部大学院で医学生たちの知覚力低下の解決法として取り入れられた絵画鑑賞トレーニング


私はこの日本で開発された「アートマインド®︎コーチング」のアドバンスコーチの資格をとったので、それを生かそうと、これまでやってきた子ども向けのアートクラスで実践・実験をしながら、より良い方法を試行錯誤で模索しているところです。

世界が注目するアート鑑賞

VTS(Visual thinking strategy)とか、絵画鑑賞トレーニングとか、アートマインド®︎コーチングとか。

よく分からないと思ってしまいますが、それぞれの組織が絵画を利用して展開する手法の違いであり、共通する点は、もともと人間に備わっている感性を引き出したり、後から身につけてしまった先入観をとりはらい、観察力や論理的思考力の向上を目指すモノだと理解しています。

情報が溢れる社会に慣れ親しんでしまった私たちは「深く考えること」をしなくなってしまい、観察力や思考力がどんどん衰えているように感じます。

これまでは見えていた問題を解決するだけでよかったものが、これからはその問題さえも情報に埋もれて見つけづらい世の中になってきました。そこで、問題を自分で見つけたり、そもそも正解のない問題に立ち向かい、自分なりの答えを見つけていくスキルが必要になってくるのです。

同調圧力の文化が蔓延して、周りを気にしすぎる日本人が、自分という軸を中心に生きていけるというマインドを手に入れる、最強のスキルではないかと私は思っています。

団体や個人問わず、「アート鑑賞」という芸術的な分野での体験が、非認知能力(心や感性の能力)を育てるために大切であり、観察力や論理的思考力のみならず、自己肯定感やコミュニケーション力などの効果を得られるとなれば、世界が注目するのも不思議ではないですよね。

ここまで読んで、もしかしたら

「美術館に行って絵画を見ても、それほどのメリットは感じないけど」

と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今回のトピックである「アート鑑賞」は、ただ受身的に見るのではなく、アートを見ながら対話する、アートを見ることで単なる感想ではない事実を言語化する、など積極的に絵画を利用するのです。

VTS(Visual thinking strategy)
1980年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)で教育部部長を務めていた、認知心理学者でもあるフィリップ・ヤノウィン氏が中心となって開発された対話型アート鑑賞法。
小学校の美術の授業に用いられ、年に10回行うだけで、子どもたちの様々な力を伸ばせることが証明されています。ハーバードの医学部の研究によって、認知症の方の改善もこれによって見られることが分かりました。
もともとはVTS

絵画鑑賞トレーニング
イェール大学医学部大学院にて、創始者のアーウィンM・ブレーヴァーマンが医学生たちの知覚力低下に気づき、その解決法として取り入れたことがきっかけとなったトレーニングだそうです。

トレーニングを受講した学生たちの患者を見極める目は、受講しなかった学生と比べると74%も高くなることが実証されました。さらに、皮膚科の疾病に関する診断能力が56%も向上し、全般的な観察能力、特に細部の変化に気づく能力も10%向上したというデータも出ています。

↓こちらは日本で生まれたアートマインド®︎コーチングの詳細です。

一般社団法人 日本アート教育振興会

私はちょっとした興味と共に、「対話型アート鑑賞」という言葉は以前から知っていました。いつかニューヨークで学びたいなとうっすら思ってみたりして、その内容については勝手な推測をして満足していました。

しかし、今回の友人の言葉を聞いて、それはもしかして私がこれまでの経験(小さい頃からの絵画経験や大学で美術を学んだことなど)から自動的に理解してしまっている、つまり独自の想像で「こういうものだよね」と決めつけている部分もたくさんあるのでは・・・と気づきました。

現在は、子どもを対象にこのアートマインド®︎コーチングを行なっています。でも実際のところは大人がたくさん体験した方が良い内容だと思っています。

保護者の方向けにご案内した内容は(こちらのページです)、なるべく分かりやすいようにと思って書きましたが、全く興味のない人、全く絵画や美術という分野に触れずに大人になった人には、すぐに理解できるような体験ではないのかもしれない。そこでこうして少し補足説明&自分の思いを書いておこうと思います。

対話型アート鑑賞が大人に良い理由

大人こそ体験を、と思った理由は二つあります。

一つ目は、「固まった、偏った価値観」というものを和らげる体験ができるから、です。もちろん、私が今対象としている小学生年代の子どもたちも、すでに自分なりの経験や環境からしっかりとした価値観が確立されているので、対話をしながら多様性に気づくという意味では有意義な体験だと信じて活動しています。

価値観てなんだろう?

価値観は、その人が最も大切にしているものとか、その人が優先順位の中で何を上位に上げるのかとか、それぞれの考え方、だと思います。生まれ育った場所や周りにいた人のことばなどによって、人それぞれ異なるものですが、それを押し付けたり、自分が正しいと思ってしまったりすることでコミュニケーションがうまくいかないことはいくらでもありますね。

対話型アート鑑賞はグループでことばを出し合うので、こんな見方もあるのか、こんな考え方もあるのか、と自分とは違う価値観に出会うことができます。毎日同じルーティンを過ごす中では得られない、驚きや発見があります。

二つ目の理由は、「観察力」を鍛えられるからです。
日々の暮らしの中で「観察力」が鈍っているなぁと思うことが最近多くあります。

先日、戸棚を開けてここにあるはずと思っていたコップがないことに気づき、「あれ?あれはどこに行った?」と息子に聞いたら、「ここにあるのに!どこ見てるの?!」とすぐ一段上にあったのです。その他にも、探し物をしていてすぐそばにあるのに見つけられなかったことが何度かあります。(メガネが頭についていた、スマホがお尻のポケットに入っていたとかね。)

そうそう、最近息子と始めた将棋も。まさか7歳に負けるなんて!と思うほど。しっかり隅々まで見ているつもりでも、うっかりミスでいとも簡単に負けてしまいます。(頭の良し悪しの違いか?)

こんなふうな思い込みだけで、モノを見つけられなかったり見間違えたり。本当に我ながらびっくりします。

もちろん、年のせいがほとんどかもしれないですね。だからこそ、思い込みで固まった価値観や鈍った観察力を鍛えるためにも、この対話型アート鑑賞がいいなと思うのです。

最初に「この絵の中で何が起こっているかな?」と隅々まで観察します。

ただ見えたものをことばにします。何が見えるかは、先入観によって変わってきますね。

じっくり「モノ」を見ることも、忙しい日常の中では滅多にないことだと思います。他の人が見えると言ったものが、自分には見えないことも。逆に自分には見えるのに、他の人には見えないことも。そんな体験で思考の筋力が鍛えられるのではないでしょうか。

大人にはまず、目的の共有が必要

言葉は単にツールであって、それを受け取る側の心がどんな状態か、これまでどんな体験をしてきたか、どんな習慣を持っているかなどでその意味は全く異なるものになります。

(読書をするにも、「自分が気になっていることや欲しい情報」しか頭に入ってこないと言います。だから読む時期によって異なる印象を持つのですよね。)

ここでいう「言葉」を「絵画」に置き換えてみると、やはりそれぞれ見る人のバックグラウンドによって受け取り方は100人いれば100通り。

子どもと一緒にこの対話型アート鑑賞をするときは、「対話」自体から始めてもそれが楽しければ大いによし。と思うのですが、知識も経験も積み上げた年数が多ければ多い大人ほど、「目的の共有」が何より大切だと思います。

子どもは目的を考えずにまっすぐなまなざしで絵を見ます。

しかし大人は
「まずこの絵は誰が描いたの」
「有名な絵なら何か知らないと恥ずかしい」
「どの時代の絵だろう」など、
その絵の背景を知っているか知らないかという知識の有無を気にしてしまいます。

また、「どうして鑑賞するの」「鑑賞することに意味はあるの」とその体験自体のメリットを先に考えてしまいます。

だから、大人はとくに、この対話をする「目的」を最初にしっかり理解することが大切だと思うのです。

その作品を見て、何を感じ、何を考えるか?

それを言語化することで思考と対話を深め、考える力や観察力・コミュニケーション力を高めるのが目的です。

例えばビジネスの世界では、メンバー間の相互理解を促進し、チームビルディングに役立てることができます。
家族であれば、お互いの価値観の違いに気づき、日常のコミュニケーションを円滑にするために生かすことができます。
初めて出会ったグループでも、それぞれに異なる視点に気づき、自分の視野を広げたり、論理的に説明する必要性から思考力を高めたりすることができます。

このように目的はさまざまですが、「その作品を見て、何を感じ、何を考えるか?」を言葉にする。これを意識して鑑賞を行うことが、全て自分の視野を広げることにつながっている、と思います。

自分なりの答えを見つけ出す

子どもは何も言わなくても、自分がどう感じたかをすぐに口から出すことができます。

大人は「これを言ったらまずいかな」「こんなふうに見えるのはおかしいのかな」など、ことばに出す前に、立ち止まってしまいます。そんなふうに周りに気をつかうことは日常でやっているから、なかなか抜け出せないのは当たり前ですね。

対話型アート鑑賞では、「本音」をポロッと出して良いのです。ポロポロっとどんどん出して良いのです。それに対して良いも悪いもありません。誰にもジャッジされず、誰に気を使うことなく、誰と比較されることもなく、ことばに出して良いのです。

すると、「ああ、私はこんなことを思っていたんだ」「あの人はあんなこと言ってるけど、それもアリなんだ」など少しずつ「思い込み」が解凍されていくのです。

さらに、「どこからそう思ったのか?」という問いに対して、自分なりの言葉をつむぎ論理的に話す努力が促されます。それにより、さらに観察をしようとしながら、自分の持っている言葉の領域を広げて行くこともできます。

アート作品を見ることで「正解のない問題に取り組む力」を磨くことができる。さらに、作品から自ら問いを立てる力と自分なりの答え等を出す力、つまり 「問題発見能力」と「課題解決能力」を伸ばすことができる

なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館にいくのか?

私は月に何回か、自分の子どもたちにも実践しています。高校生の娘と小学生の息子はもちろん年齢差がありますが、それぞれが同じ環境で育ちながらも、全く異なる視点と価値観をもち、それらを目の当たりにできる私は本当に幸せだなぁと感じます。

特に上記で紹介した VTSについては、美術の知識を持っていない人でも実践でき、効果が得られるような問いかけの言葉一字一句まで研究されたものです。ナビゲーター、ファシリテーターなどと呼ばれますが、親として実践する側に立つことで、とても良い影響があると実感しています。

「多様性を認め合い、お互いを尊重してほしい」なんて子どもにいう前に、「これが良い」「あれが良い」と習い事を勧める前に、まずは自分の勝手な思い込みによる凝り固まった価値観を解凍すべきだなあと猛反省している今日この頃です。

参考になる書籍をご紹介します。たくさんありますが、代表的なものはこちらです。

「どこからそう思う?学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ」
フィリップ・ヤノウィン 著

なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館にいくのか?
岡崎大輔 著

ここで記したことは、私の主観がかなり入ったものですので、ぜひ「対話型アート鑑賞」「対話型絵画鑑賞」などで検索をしていただき、たくさんの方々が取り組んでいらっしゃるそれぞれの「対話型アート鑑賞」の良いところを探してもらえたらと思います。


対話型アート鑑賞についてのお話をしてきましたが、鑑賞方法に良いも正しいもありません。背景を知ることが楽しいと思う人はそこから入るのも全く悪いわけではありません。

「知りたい」欲求はとても大切だと思いますし、作者が生きた時代を想像したり、歴史の流れの中でどうしてこういう作風が生まれたかなど、興味は人それぞれ、楽しみ方もそれぞれです。

知識や教養以外の自分の内面のために、アートをこれまでの見方とはちょっと別の視点から利用してみよう、という試みにちょっとでも興味を持ちましたら、ぜひ対話型アート鑑賞を日常に取り入れてみて欲しいと思います。

体験してくださる方を募集中

子どもたちへはこのプログラムを実践してきましたが、まだまだ大人の方向けに行ったり、オンラインでの実践の経験が足りません。しばらくは無料で行っていますので、ご興味がございましたらお気軽にご連絡ください。
岐阜県岐阜市対面でのアート鑑賞またはオンラインzoomで行っています。

スケジュールは個別に調整可能です。
お一人でも、数名でも、開催します。ご都合の良い日程をぜひご連絡ください。
その他、ご質問やご感想など、いつでもお待ちしております!


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